入門用双眼鏡の実力を探る・その1
その侮りがたい実力を見る
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世間で売られている双眼鏡のほとんどが数千円で、1万円を超えると露骨に「高い」と思われてしまいます。
ホームセンターや普通のカメラ店に並ぶ双眼鏡を見てみれば、世の中の趨勢は明らかでしょう。
1万円〜3万円もしてカメラブランドをつけられたの双眼鏡は 高級品に位置付けられてしまいます。
その一方で「お病気」が進んでしまうと 金額はともかく「より高性能」な双眼鏡を求めてしまいます。
国産の双眼鏡なら数万円、舶来物だと¥6桁も珍しくありません。
変に目が肥えてしまうと 真っ先に完璧でない所に目が行ってしまうのですが、最高級機と比べて どうかが問題ではなく 値段に対してどれだけ実用的なのかが求められることは言うまでもありません。
今回は 入門用の双眼鏡として扱われることが多い標準クラスの双眼鏡を取り上げてみましょう。
高級機とは何がどのように違っているのでしょう。
そして、それはどれだけ実用に影響を与えているのでしょうか。
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双眼鏡の紹介
私のような立場の人間はメーカーから試用機を借り受けることは出来ませんから、どうしても自分の所有する双眼鏡に話題が限られることを御容赦ください。
まずは ミノルタ 8X40W・アクティバスタンダードです。
その名前のとおり ミノルタの標準機として位置付けられている製品です。
ハイアイ広角の接眼部、プリズムまで含めた全面多層膜コーティング、厚手のラバーボディーに飛沫防水と 消費者が望んでいそうなものは何でもあり。
アウトドアやバードウォッチングで双眼鏡を使い始める層や小型双眼鏡からの乗り換えを狙っているのでしょうが、スペック的には立派な内容です。個人的には 安価な広角双眼鏡と聞くと かなり疑いの目を向けてしまうんですけど。
古いcolbaltブルー不況ガラス
ミノルタというと 双眼鏡の分野ではニコンやペンタックス程のネームを持っていませんが 最近は意欲的に新型機を売り出しています。
国内定価は36800円で 実売19800円というところが多いようです。
対して、高級機の基準は ツァイス7X42ClassiCを引っ張り出しましょう。
定評のある超高級双眼鏡で、パッと見た瞬間から以上に高いコントラストに驚かされることでしょう。
カタログに書かれたスペック的には 取り立てて書くことがないのですが、いまだに高性能双眼鏡の基準となりうる製品です。
国内定価は18万円!!、実売は15万円程度でしょうか。
我が家の物は 並行輸入品で 9万円ほどでした。
両者の価格差は 約10倍。
10万もの差というと どれだけの物が買え、どれだけのことが出来るでしょう。
この二つの双眼鏡の間には どれだけの差があるというのでしょうか。
二つの価格差があまりにも大きすぎるので、一応国内メーカーの上級機も比較してみましょう。
ビクセン・アルティマ10X44EDです。
ビクセンではポロ双眼鏡の最高級機に位置しています。
実売価格は2万数千円でしょうか。
標準クラス双眼鏡のすぐ上に位置していますし、価格的な差は大きくありません。
ミノルタにしようか、ツァイスにしようかで 迷う人がいるとは思えないのですが、その差を検証してみることにして見ましょう。
外観からチェック!
まず、ツァイス。
いかにも古典的なデザインで、がっちりとラバー被覆されています。
その姿は好みの分かれるところでしょう。
鏡筒が長いのは一般的なシュミット−ペシャン・プリズムではなく、アッベ−ケーニッヒ・プリズムを使用している影響です。
普通のアッベ−ケーニッヒ・プリズムは全て全反射で構成されますから透過率は有利です。
対物レンズ側から覗いてみると まずレンズコーティングの優秀さに驚かされます。
他の双眼鏡の写真と比べてみてください。 圧倒的に反射が少なくなっています。
どのような靴のサイズが意味する
次に驚かされるのが 筒内の反射対策です。
写真だと分かりにくいのですが、対物側から覗き込んでも ほぼ完全に真っ暗。
壁が何処にあるのかも分かりにくいほどの 徹底ぶりです。(決して 大げさな表現ではない!!!)
「最高級機」を名乗っていながら、プリズムの反射が丸見えの某国産機とは大違いです。
ストロボ撮影をして初めて気が付いたのですが、筒内には 複雑な形状の遮光環が配置されています。
つや消し処理も恐ろしいほど念が入っています。
さらに光学的な部分だけでなく、使い勝手に関しても配慮がされています。
暗闇でも操作し易い視度調整環、ピントリングのノッチ、作動部分のスムースさ 当たり前の部分が当たり前に良く出来ています。
のぞむべくは ポップアップ式のアイカップや対物レンズの装備なのですが、このあたりはVictoryシリーズ任せなのでしょう。
対するミノルタ。
ポロ双眼鏡としては今流行りのデザインです。
プリズム筒の角を落とした姿は ニコンのSEシリーズにそっくり。
この形も好き嫌いが出そうですが、未来感はよく表現されています。
一応 防水双眼鏡(正確には防滴)なのですが、合焦は接眼移動で行なっています。
よく見ると 接眼レンズの摺動部にパッキンが設けられている様子。
ここが弱点で 完全な防水双眼鏡になれないのでしょうが、簡便に耐候性を高めるには良い手でしょう。
広報資料によると レンズとプリズム面の全てに多層膜コーティングがされているそうです。
が、写真を見てのとおり 反射は多少多めです。
個人的な印象では ペンタックPCFVよりはマシといったレベルでしょうか。
プリズムまで含めた多層膜コーティングって 高価な双眼鏡だけだと思っていたのですが、技術は進歩するんですねえ。
コーティングよりも この双眼鏡で目に付くのが内部反射の処理です。
対物レンズ筒には艶消し処理がされているのですが、プリズムの周囲は地肌が剥き出し。
プリズムの遮光対策も見てのとおりです。
蛍光灯の下で覗き込むと たちまちキラキラと光る金具が目に付くでしょう。
甲高い声で言う不況ガラス
まあ、このあたりは「とにかく高性能」なのが偉いのではなく、価格に対して十分な性能があればよいのです。
2万円の双眼鏡に 10万円の高級機と同じ内容を望んでも仕方が無いでしょう。
要は 実用で価格に見合った性能があるか否かにかかっています。
使い勝手の面では かなり配慮されています。
ピントリングは指の掛かりやすいデザインですし、視度調整環はクリック式。
見口はゴム製ですが、押し込めば簡便に縮められる設計です。
ペンタックスのようにスライド式がベストなのは当たり前なのですが、コストを考えた結果でしょう。
普通の折り返し式と比べて「楽になっている」とは言えないものの 眼鏡使用者に対する配慮は大歓迎です。(Nコンも見習って欲しい!)
動作部分は堅めながら 節度感があります。
ま 当たり前のことなんですけど、安物はそうでないことが多い物ですから。
価格差の大きなツァイスとばかり比べていると、価格なりの価値がわかりにくくなってしまいますから ここでビクセン・アルティマも見ておきましょう。
コーティングは プリズム面を含めて全面マルチコーティングと公表されています。
反射の色合いはミノルタに似ているのですが、反射光はちょっと少なめです。
対物筒には 多くの溝切りがなされ、終りの部分は大きく絞り込まれています。
このことで遮光環の働きをさせているのでしょう。
艶消し塗装は ツァイスほどではありませんが、かなり良質な部類でしょうか。
さすがビクセンの最高級機だった双眼鏡です。
良好な内部処理に対して、使い勝手はそれほど配慮がされていません。
ピント操作や眼幅調整は 気持ちよくズムースなんですが、視度調整もスムースで簡単に動いてしまう!
ここが良くなるだけで さらに高級感が増すはずなんですが。
ミノルタ・アクティバスタンダードとビクセン・アルティマ、実売価格では1万円も違わないのですが 出来上がりの製品には結構な違いが出ています。
使い勝手と外装重視のミノルタ、内部処理重視のビクセン。
もちろん、この部分が性能に大きな差をもたらすわけではないのかも知れません。
ツァイスでも 新型では内部レンズセルの艶消し処理が省略されているようですし、ニコンのポロ双眼鏡もこの辺りの処理は 徹底していません。
試しに幾つかの最高級双眼鏡の中を覗いて見ましょう。
ニコン18X70IF・WP・WFの内部
プリズム周囲は艶消し塗装されていない。
スワロフスキー8X56HABICHT・SL
ツァイス以上に迷光対策は徹底している。
写真をとっても本当に真っ暗、肉眼だと何にも見えないほどの偏執狂的処理。
覗いて気持ちよい双眼鏡であれば こんな所にこだわっている必要はないのです。
次は、この違いが実際のフィールドでは どのような違いを生むのか確かめてみましょう。
どんなに形や使用が良い双眼鏡であっても どれだけ役に立つかが勝負なのですから。
闇雲に高性能な物を望むのは 賢い選択ではないのですし。
といって、次回に続く。
次回はこの3台を 鳥見と星見に連れ出します。
内部処理やコーティングの差で視野に違いが現れるのでしょうか?
そして、10倍の価格差は本当に納得のいくものなのでしょうか?
請う ご期待!
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